医師だけではなく看護師、特に薬剤師必読です。
具先生は自分の感染症フェロー時代の直属の指導医でした。 「具先生はなぜ感染症医になろうと思ったのですか?」と10年近く前に聞いたのを思い出します。実は数年前にも同じ事聞いたときも同じことをおしゃっていました。
以下いくつか印象に残ったところ引用です。
■今後有効な対策が打たれなければ,薬剤耐性菌によって死亡する人が2050年には世界で年間1000万人にも達し,その数は悪性腫瘍による死亡者数を超えるとの推計が出ている
<)The Review on Antimicrobial Resistance Chaired by Jim O’Neill. Antimicrobial Resistance:Tackling a crisis for the health and wealth of nations. 2014.>
■外来での処方状況を調べてみると,特に小児への使用が目立ちます。子どもは病気にかかりながら成長していく側面もあるため,受診機会が増える結果として抗菌薬を投与される機会が多いのでしょう。しかしその中には抗菌薬処方の不要な病態が相当な頻度で混ざっているものと考えられます。小児に対する処方の在り方を見直すことは,適正処方を進める端緒になります。
■きちんと診断をつけて治療方針を決めることは診療の基本です。ところが,診断が確定されないまま何となく抗菌薬が処方されていたり,あるいは必要な細菌検査が行われずに抗菌薬が選択されたりし,その結果不適切な抗菌薬の処方につながっています。丁寧な病歴聴取と身体所見に基づき,必要な検査を適宜行って適切な処方につなげていくことが大切です。ガイドラインにはその過程を示す内容が必要になると思います。
■例えば上気道炎症状を来す喉や鼻の感染症の多くは抗菌薬不要とされています。しかし,実に約6割の患者に抗菌薬が処方されているとの報告があります。
<Higashi T, et al. Antibiotic prescriptions for upper respiratory tract infection in Japan. Intern Med. 2009;48(16):1369-75.[PMID:19687581]>
■病院では薬剤師もベッドサイドに出向く流れにあり,抗菌薬の適正使用についても薬剤師の活躍が大いに期待されます。特に病棟薬剤師は,医師が抗菌薬を処方した際にその投与量や投与間隔,薬剤の選択が適切なものかをチェックできる立場にあります。例えば高齢者や,腎機能の悪い方など,細やかな調整が必要な場面こそ,薬剤師の専門性が生かされるでしょう。薬剤師には医師とディスカッションしながら適切な処方を提言してもらい,医師も薬剤師に対し積極的に尋ねてほしいですね。
■各医療専門職の卒前・卒後教育において,より充実した感染症診療の教育が必要です。医師の卒前教育では,臓器別の教育に対し感染症を横断的に学べる科目立てがほとんどなく,また,手指衛生など院内感染対策の教育も十分とは言えません。今後医学教育コア・カリキュラムに,抗菌薬適正使用の必要性などが明記されることが必要と考えています。
■医療者間で抗菌薬適正使用が広く理解されることは患者教育にも生かされ,ひいては市民に抗菌薬の使用について正しい知識を伝えていくことにもつながるはずです。